佐原の町には、いまも湯気が立ちのぼる場所があります。
薪をくべて釜で沸かし、井戸水を使う。そんな銭湯が、いまも現役で残っている。
今回お話を伺ったのは、金平湯の番台に立つ金田まゆみさん。
「つけてよ」と笑いながら、キャッチコピーもこちらに任せてくれました。
でも、話を聞けば聞くほど、この人の毎日は“言葉で盛る”必要がないくらい、ちゃんと強い。

茨城・行方(霞ヶ浦の上)から、佐原へ。
大内:
まゆみさんは、佐原のご出身ですか?
まゆみさん:
私はここに飛んできた人間。
茨城の行方(なめがた)。霞ヶ浦の上の方。
紹介がきっかけで、佐原へ嫁いだのが約50年前。
そこから今日まで、町と一緒に暮らしてきました。
番台に立つようになったのは「おじいさんが亡くなってから」。気づけば20年以上
もともと銭湯は、家族で役割分担しながら回していました。
「旦那の親が番台」「旦那さんはボイラー側」。
まゆみさん自身は、最初から“ど真ん中”で働いていたわけではなかったと言います。
まゆみさん:
私が来た時は(家の中にも)病気の人がいてね。
少し手伝うようになって、そうこうしてるうちに子どもが生まれたりして。
本格的にやり始めたのは、おじいさんが亡くなってから。
そこからずっと 20年以上。
いまはご主人も亡くなり、ほぼ一人で回す日々になりました。
1日・10日・20日以外は、ほとんど番台。狭い場所に、毎日立つ
大内:
番台って、ずっと立っている感じなんですか?
まゆみさん:
1、10、20以外は、ほとんど番台に立ってる。
番台はとにかく狭い。
「ここまで」「これがあるからここまで」と、身振りで示してくれた範囲が本当に小さい。
狭い場所で長時間。しかも、いまは一人。
まゆみさん:
狭いのは大変。本当に狭い。
今は(夫がいないから)ずっとやらなきゃいけないし。
昼に火を入れ、15時に開ける。夏は灼熱、冬はまだマシ
金平湯は、15時オープン。
でも、開けるまでに準備がある。
まゆみさん:
お昼には釜に火を入れて、15時から番台に立つ。
季節でしんどさが変わる。
冬はまだ「暖房もあって良い」。
本当にきついのは、夏。
まゆみさん:
夏は辛い。本当に辛い。冷房とかない。
今年は風の出るベストを買ったわよ。
空いてる時は住まいの方に逃げてたわよ。
逃げても、完全には休めない。
上にスイッチがあって、お客さんが来ると分かる仕組みになっている。
まゆみさん:
上にスイッチがついてるから、お客さんが来ると分かるんです。
“休む”というより、“戻れるようにしておく”。
その距離感が、働き方にも表れていました。
「変てつもない仕事の繰り返し」だからこそ、休まず続ける
大内:
お仕事で大切にしていることはありますか?
まゆみさん:
こういう仕事って、変てつもない仕事の繰り返しだから。
毎日毎日、やり続ける。
休みはほとんどしないようにしてる。
突然「今日は休みます」とかできないから、分かってる冠婚葬祭は書くようにしています。
銭湯は「今日は気分で休み」では成り立たない。
来る側は、いつもの時間に、いつものように来る。
それを裏切らないのが、番台の矜持だと思います。

嬉しいのは「感謝されること」。続けてきたから、届く言葉がある
印象に残っていることを聞くと、答えはまっすぐでした。
まゆみさん:
感謝されると、やっぱり嬉しいよ。
毎日同じことを続けるのは、単調にも見える。
でもその繰り返しの先にしか生まれない関係がある。
銭湯は、その代表かもしれません。
佐原は「住みやすい」。でも駅前は、昔の方が賑やかだった
まゆみさんにとって佐原は、暮らす町。
まゆみさん:
住みやすいとこだよねえ。
一方で、変化も見てきました。
昔の駅前はもっと賑やかで、デパートのような店もあった。
まゆみさん:
昔の方が駅前は賑やかだった。清宮とかポポとか。
だんだん寂れてきてしまってる。
それでも、町に人が来ると嬉しい。
金平湯も、観光の“景気付け”みたいな役割を担っていると話します。
金平湯の名前の由来:金田平左衛門。70年ほど前から「金平湯」
店名は「金平湯」。
そして、家の名にまつわる話が面白い。
まゆみさん:
金田平左衛門。
70年くらい前から金平湯という名前になった。
電話でも「金田です」と言わず「金平湯です」になったと紹介するようになったようです。
名字と屋号と呼び名が混ざりながら、町の中で定着していく。
地域の店らしいエピソードでした。
(※組合登録名は「松ノ湯」として登録している、とのこと)
かつて銭湯は4軒。いま営業しているのは、ここだけ
まゆみさん:
来た時には4軒あった。今はウチしかやっていない。
銭湯自体が減っていくなかで、残り続けること自体が価値になっています。
自慢は「薪」と「井戸水」。それがあるから、続けられる
金平湯の強みは、はっきりしています。
まゆみさん:
薪を炊くのは珍しいよ。
うちは井戸水と薪だから、やってられる。
燃料も水も、コストだけで語れない“仕組み”がある。
そしてその仕組みを、日々の手間で成立させている人がいる。

まちぐるみ博物館:銭湯そのものが“展示”。煙突も、湯も、続くことが価値
大内:
まちぐるみ博物館としては、どこが対象になりますか?
まゆみさん:
店舗自体。銭湯自体。薪の煙突も。
“見る展示”というより、“続いている展示”。
金平湯は、営業していること自体が町の文化の保存だと感じました。


休まず湯を守る、番台のまゆみさん
まゆみさん:
キャッチコピーはつけてみてよ。
ということで、
「休まず湯を守る、番台のまゆみさん」
ではないかと感じます。
取材後記
金平湯は、観光スポットとして“映える”場所ではないかもしれない。
でも、町の暮らしの温度を、そのまま残している場所です。
昼に火を入れ、15時に開ける。
夏は灼熱のように暑くて、風の出るベストを買う。
それでも、休まず続ける。
そして「ありがとう」と言われると、ちゃんと嬉しい。
銭湯は、湯だけじゃなくて、続ける人の時間でできている。
金平湯は、そのことを想い出させてくれる場所でした。
