香取街道と小野川沿いの道が交差する角地に、どっしりと構える商家があります。
代々、荒物や雑貨を商ってきた「中村屋商店」です。
建物を前にすると、「お店」というより、町の時間をそのまま抱え込んだような存在感に圧倒されます。
中村屋商店の店舗兼住宅と土蔵は、県指定有形文化財(建造物)。さらに、重要伝統的建造物群保存地区内の建物でもあります。
店舗兼住宅は江戸時代末期の安政2年(1855)に建築されたと伝えられ、正面には繊細な格子窓、軒下を張り出した「せがい」など、格式のあるつくりが残っています。
そして3階建ての土蔵は、明治25年(1892)の大火後に建てられたもの。
交差点が直角に交わっていないため、屋根や間取りも“変形”しており、町の地形に合わせた工夫が随所に見られるそうです。

今回お話を伺ったのは、2025年4月から店に本格的に立ち始めた久保木朋子さんと、お母さま。
中村屋商店の“これまで”と“これから”が、ちょうど重なり合うタイミングの取材になりました。
ゆーみん:
改めまして、今日はよろしくお願いします。今回、まちぐるみ博物館に登録されているお店を、店主さんの雰囲気も含めて紹介したくて、「どんな人が営んでいるのか」を残したいと思っています。
お母さま:
よろしくお願いします。うちはね、まちぐるみ博物館を立ち上げた時から関わっています。私はもう年齢もあって、活動は今は控えめだけど……これからは娘に引き継いでいきたいと思っているんです。
ゆーみん:
では今回は、久保木さんのお名前で掲載する形で進めても大丈夫ですか?
お母さま:
もう、これからはこっちでいいです。私もいつまで店に立てるか分からないしね。
こうして話しているだけでも、「建物を残す」だけではなく、「営みとして引き継ぐ」ことのリアルが伝わってきます。
久保木さんは佐原生まれ、佐原育ち。
大学進学で一度外に出たものの、就職で地元へ戻り、成田空港で25年働いてきました。
そして2025年3月末で退職し、4月から中村屋商店をお母さまと一緒に切り盛りしています。
ゆーみん:
久保木さんは、どういうきっかけでお店に入ることになったんですか?
久保木さん:
母の体調のこともありますし、子どもの成長のタイミングもあって。
空港勤務だと生活が回らないな、と思ったんです。
成田空港の免税店で25年働いてきたんですけど、3月末で辞めて、4月からここに戻ってきました。
ゆーみん:
生活は変わりましたか?
久保木さん:
通勤がなくなりました(笑)。家からお店まで30秒くらいで来られるので。
勤めていた時は、朝も早くて、子どもを実家に預けて急いで出て、終わったら帰ってきて…っていう感じだったので、移動の大変さは減りましたね。
自分のペースでできるし、送り迎えもあるので、今の方が合っている気がします。
佐原で育った久保木さんの記憶の中心には、「お祭り」があります。
ゆーみん:
小さい頃の思い出って、何が一番強いですか?
久保木さん:
やっぱりお祭りですね。小さい時からずっと。
今は、子どもが小学4年生で、夏祭りは友達のところに付いていく形で、保護者として一緒に関わっています。
佐原の祭りは、外に出た人も「祭りのときだけ帰ってくる」ことがあります。久保木さんはそこに、町をつなぎとめる力を感じていると言います。
久保木さん:
佐原の良さって、古い街並みとか建物とか、景色とか…「感じるもの」があるところだと思うんです。
でも大きい企業があるわけでもないので、若い人は外に出ちゃう。戻らない人も多いし、人口も減っていくし、いい循環が来にくい。
だから、若い子たちに戻ってきてほしいなって思います。
この言葉は、観光の話というより、「暮らしの未来」の話でした。
中村屋商店の魅力を聞くと、返ってきたのは意外と率直な答えでした。
ゆーみん:
お店として、ここを見てほしい!というポイントはありますか?
久保木さん:
建物に興味がある人は、ぜひ3階まで上がってほしいです。
でも実は、建物に興味を持って来る人って、まだまだそんなに多くないんですよね。
「文化財です」って言っても、上がらない方も多いです。
ゆーみん:
どんなお客さんが多いんですか?
久保木さん:
女性の方が多いですね。昔は年齢層が高かったけど、最近は若い子も増えてきました。カップルで来てくれたり。ドラマのロケ地になったこともあって、いわゆる“聖地巡礼”みたいな感じで20〜30代の方が増えた時期もありました。
お母さまも、「店の中身は変わってきた」と話します。若い久保木さんが入ったことで、仕入れや見せ方にも変化が出てきたそうです。
お母さま:
私一人の時は、なかなか変化ができなかったのよ。腰も悪いしね。
でも娘は、空港の免税店での経験があるから「こういうのは売れる」とか、飾り方も含めて、いろいろ教えてくれる。商品も増えたし、助かってます。


中村屋商店のまちぐるみ博物館は、主に3階にあります。展示の中心の一つが「連鶴(れんづる)」。
ゆーみん:
まちぐるみ博物館としては、どんな展示をされているんですか?
お母さま:
本当は1階にあると一番いいんだけどね。今は3階をまちぐるみ博物館にして、先祖の残してくれたものも一緒に展示してます。
楽しめるスペースにはなってますよ。連鶴もあります。


久保木さんは今、外国の方にも楽しんでもらえるように、少しずつ工夫をしていると言います。
久保木さん:
英語の注釈をつけてみたり、入口のところも英語や中国語の表記を足してみたり。
来た時に「これは何だろう?」が分かるようにしたいなって思って、できるところからやっています。

中村屋商店は、文化財としての価値がありながら、同時に「生活と商いの場所」でもあります。
そしてまちぐるみ博物館は、その両方を“見える形”にしてくれる仕組みだと感じました。
久保木さんは、外で働いた経験を持ちながら、今この町に戻ってきました。
「若い人に戻ってきてほしい」という言葉には、きれいごとではない実感があります。
中村屋商店の3階に上がると、建物の歴史や展示物だけでなく、「この町を続けていこうとする人の気配」も、きっと感じられるはずです。
