ロゴは、ただのマークじゃない。

そう思わせてくれたのが、「佐原元気プロジェクト」「イのハコ」「サワラビルボード」のロゴたちです。

これらを手がけたのは、株式会社KHO代表であり慶應義塾大学SFC研究所に所属する、デザイナー・木口恒さん。
地域の空気や、人の想い、プロジェクトの“らしさ”をすくいとって、丁寧に、形にしてくれる方です。

今回のインタビューでは、ロゴの着想から完成までのプロセスはもちろん、
木口さんが「デザイン」と向き合っているのかを、じっくり聞かせてもらいました。

「Sの形は川の流れから着想した」
「角は0.08ptだけ丸くしてある」
「意味は時間とともに貯まっていく」

……そんな言葉たちの奥にある、“まちと共に育つロゴ”の姿。
読後には、まちなかでロゴを見かけたときに、少し違った見え方がするかもしれません!

木口さん

リリ:木口さんには、佐原元気プロジェクト・イのハコ・サワラビルボードのロゴの作成をご依頼しました。プロジェクトに関わる前、佐原の印象はどうでしたか?

木口さん:実はプライベートで何度か来たことがあって、観光地としての佐原は知っていたんです。ただ、今回は“プロジェクトの顔をつくる”という立場で訪れて、あらためて「この空気、どうやって表現しようかな」って思いましたね。

リリ:空気の“肌触り”みたいなものでしょうか。

街並み

木口さん:そう。川沿いの風景、まち並み、建物の木の質感……すごく静かだけど、静かすぎない。
ちゃんと「何かをやろうとしてる人の気配」がある。その感覚をロゴににじませたくて。

リリ:その“らしさ”をどうデザインに落とし込んだのでしょうか?

ロゴ

木口さん:まず、「S」の字を川の流れに重ねてモチーフにしました。プロジェクトの頭文字でもあり、流れるように“つながっていく”象徴でもある。それに明朝体の重みを合わせることで、まちの歴史や文化的な重厚感を出しました。

リリ:学生の活動も中心にあるので、伝統だけでなく柔らかさも必要ですよね。

木口さん:そう。だからあえて明朝体だけに頼らず、余白の取り方や線の太さ、フォントの太さで“若さ”を残しました。重厚さと柔らかさの間を狙ったデザインです。

リリ:ロゴが完成してから、3年が経とうとしています。活動を通してどんな意味が積み重なってきていると感じますか?

木口さん:インフィニティのマークの意味が強くなってきたと感じています。佐原元気プロジェクトは開始当初、3年のプロジェクトとしてスタートしましたが、その後も続いていくような活動になってきていると思います。

ロゴ

リリ:「イのハコ」は、また違った難しさがあったと思います。名前が抽象的で、活動も幅広くて。

イのハコ

木口さん:そうですね。「ハコ」という言葉は自由度が高くて、何でも入る。それって、ものすごく可能性がある一方で、何も定まらなくなる危険もある。だからこそ、ロゴは極限までシンプルにして、活動が“積み重なるハコ”をイメージしました。

リリ:内側が膨らんでいたり、角がちょっと丸くなっているのが印象的でした。

木口さん:内側の膨らみは、「内側=メンバーや地域の方々からの期待感やワクワク感」を表しています。外から押し出すというより、関わる人の思いや行動が内から膨らんでくるようなイメージです。
実は、外側の四角形の角は0.08ptだけ丸めてるんです(笑)。直線すぎると冷たくなるし、丸すぎると子どもっぽくなる。関わってるみなさんが「真剣で本気だけど、柔らかさがある」。その雰囲気を、ロゴの形に映したかったのです。

 

ロゴ

リリ:サワラビルボードのロゴは、一番ポップで目を引きますよね!
自分たちの等身大の姿で、佐原のイイトコをタイムリーに表現するというコンセプトを、どう表現されたのでしょうか?

木口さん:“サワラ”という土地の名と、“ビルボード”という英語の組み合わせは意外性があって、でも親しみもある。その響きの軽やかさを、ロゴにも反映させたいなと思いました。

リリ:筆文字風のカタカナにした理由はなんですか?

木口さん:勢いと動きがほしかったんです。Web上でリアルタイムに更新されていく情報を、文字の形で表現しようとしたら、ああいう筆っぽい動きが合うなと感じて。とはいえ、崩しすぎると読みにくくなるので、ゴシック体とミックスして安定感を加えています。

リリ:たしかに、スマホでもPCでも見やすいのに個性がありますよね。

木口さん:このロゴの役割は、“まちの掲示板”の看板みたいな存在です。だから、ちょっとポップで、でも信頼感もあって、親しみがある。そういうバランスを大事にしました。

正解は誰かの中にある。聞いて、拾って、編んでいく

木口さん

リリ:ロゴをつくるとき、木口さんが一番大事にしていることは何ですか?

木口さん:「自分の中に答えはない」と思っていることですね。だから、とにかく人に話を聞く。
関わる人の価値観や目指している方向性を丁寧に聞いて、そこから生まれる“芽”をロゴの中に表現していく。

リリ:まさに「一緒に作る」感覚ですね。

木口さん:そうですね。僕が勝手にデザインを決めるんじゃなくて、「見えない何か」を一緒に形にしていく作業なんです。それって、アートとデザインの違いでもある。アートは自己表現だけど、デザインは誰かのために機能するもの。

リリ:そのために、「意味づけ」が大切なのですね。

木口さん:はい。ロゴは「意味を伝える仕組み」なんです。だから、たとえ完成したときに100%伝わらなくても、その後の活動の中で意味が“溜まっていく”ものだと思っています。

立ち返る場所として、ロゴがあり続けてくれたら

リリ:完成したロゴたちが、地域の中で使われていくのを見ると、どんな気持ちになりますか?

木口さん:やっぱり嬉しいですよ。ふと通りすがりにロゴを見かけたり、SNSで見つけたりすると、「おっ」っとニヤけちゃいます(笑)。

リリ:地域の皆さんやプロジェクトのメンバーにとっても、「大事な目印」になっている気がします。

木口さん:そうなってくれたら本望ですね。僕はよく「ロゴは旗印」と言うんですが、活動が迷ったときに立ち返れる場所になってくれたら嬉しいです。視覚的なお守りというか、背中を押す存在になれたらいいなと。ロゴがまちの中で長く愛され、自然と息づいていてくれたら、本当に幸せです。

自分たちの活動の旗印を

木口さんが手がけた3つのロゴには、まちの空気、プロジェクトの想い、関わる人たちの言葉が溶け込んでいます。
ロゴは完成した瞬間がゴールではなく、“意味が貯まっていくスタート地点”。
活動が続くなかで「これは、私たちの活動」と言える存在。
ふと目にしたときに「帰ってきた」と思える旗印。そんなロゴがまちの中で静かに育っていく…。
これからも佐原と一緒に、ロゴの意味は深まり続けていきます!