小野川沿いのにぎわいから少し視点を変えると、佐原の日常にぴたりと寄り添うお店に出会います。
建築金物から家庭用の金物まで扱う「徳島屋」。
観光客向けの“おみやげ屋さん”というより、地域の「困った」を支える金物店です。

徳島屋の外観風景

今回お話を伺ったのは、岡澤香寿美さん。東京から佐原へお嫁に来て、気づけば35年。
最初は地理も分からなかった町が、今では当たり前の日常になっていると言います。


 

大内:
今日はよろしくお願いします。まず、岡澤さんが佐原に来られた経緯から聞いてもいいですか?

岡澤さん:
私は東京からお嫁に来てるんですよ。
来た当初は佐原の町のことも全然知らなくて、地理も分からなくて。
「ここが佐原なんだ」っていうところからでしたね。
大内:
最初は、慣れるまで大変でしたか?

岡澤さん:
田舎といえば田舎なので(笑)。
生活のテンポも違いますし、ゆったりしてるじゃないですか。
慣れるのには、ちょっと時間がかかりましたね。


 

店を続けていくうえで、岡澤さんが大切にしているのは、派手な目標よりも「毎日やることを守る」感覚でした。

大内:
日々の働き方や生活の中で、大切にしていることはありますか?

岡澤さん:
毎日仕事をしてるので、それをやっぱり守っていかなければいけないじゃないですか。
うちは特にお店をやってるので。


 

佐原で暮らしてきた35年の中で、岡澤さんが何度も口にしたのが「町内の絆」と「お祭り」でした。

大内:
佐原で暮らしていて、印象に残っていることはありますか?

岡澤さん:
この辺は、町内の絆がすごい強いんですよ。特にうちの町内はすごいなって思って。
あと、お祭りがあるじゃないですか。皆さん熱心で、1年中お祭りのことを考えてるみたいな感じです。

大内:
“1年中お祭りのことを考えてる”って、すごい表現ですね。

岡澤さん:
本当にそうなんですよ。山車はバラせないので人形をバラにするんです。
この前は奈良まで行って、お寺で踊りを披露して…バラして積んで、向こうで組み立てて、また戻して。大変でしたけどね。

祭りは「当日」だけのものではなく、準備も移動も含めて“暮らしの一部”。
そんな町の熱量が、岡澤さんの言葉から伝わってきます。


 

大内:
人生の中で印象に残っている出来事はありますか?

岡澤さん:
震災の時は、大変でしたね。
うちは建物は壊れてなかったので幸いだったんですけど、家が傾いてるお家があったり、瓦が落ちちゃったり。
そういうのを聞くと、大変だったなと思います。


 

徳島屋は、建設関係の方や会社関係の方、そして近所の方がふらっと立ち寄る店です。
観光地の中心部にありながら、扱っているのは“生活の道具”そのもの。
そこが徳島屋らしさだと感じました。

大内:
徳島屋さんって、どんなお客さんが多いお店ですか?

岡澤さん:
観光客相手というより、建設関係の方とか一般のご近所の方ですね。
お年寄りの方も、量販店に行けないから来てくれる人が多いです。
家庭の金物類も置いてます。地域密着型ですね。

大内:
具体的には、どんな相談が多いですか?

岡澤さん:
ネジ1本でも「こんなのありますか」って持ってきてくれるんですよ。
探すのは大変ですけど、1本から売ります。
量販店だと袋売りになっちゃって、「そんなにいらないのよ」って方も多いので。

徳島屋の店内で商品が陳れるされている様子

外国からのお客さんの話も出ました。
雨の日には傘を買いに来る方がいたり、包丁やハサミを選ぶ方がいたり。
観光客が増える町の変化が、徳島屋の日常にも自然に入り込んでいます。


 

まちぐるみ博物館への参加は、岡澤さんにとって「展示」以上に、「つながり」をつくる経験だったそうです。

大内:
まちぐるみ博物館に登録しようと思ったきっかけは何だったんですか?

岡澤さん:
おかみさん会から始まって、まちぐるみ博物館が始まってたんですよね。
近所に住んでても、全然お店の方たちと交流がなくて、顔も知らない、喋ったことない…っていうことが多かったので。
おかみさん会に入ったことで、つながりができました。

夕涼みやひな舟、竹灯籠の準備。聞いているだけで「手間」が浮かびます。

岡澤さん:
竹の穴あけとかも、交代で空いてる時間に行ってやってました。
数を増やすほど、仕事が増えるんですよね。

徳島屋の展示は、土蔵に眠っていた昔の器や食器。
「売ってほしい」と言われることもあるそうですが、あくまで“見てもらう”ためのものとして残しています。

岡澤さん:
昔からの食器なんですけど、「これ売り物ですか」って買いたい方もいらっしゃるんです。
でも展示ですってお断りしています(笑)

徳島屋の店先に展示されている食器

インタビューの途中、岡澤さんの“素顔”が見える話題も出ました。
なかなか取れなかったライブチケットが当たった話、プロ野球(オリックス)を家族で応援している話など素敵なお話を伺うことができました。
徳島屋は、ネジ1本の相談から、祭りの準備まで、暮らしの細部を支えている場所でした。


取材後記

徳島屋は、量販店に行けない方もふらっと来られて、必要なものを1本から買える。そんな素敵な場所だと思います。

東京から来て35年。
町内の絆の中で暮らし、お祭りを組み立て、毎日店を守る。
岡澤香寿美さんの言葉を聞いていると、まちぐるみ博物館は「展示物」だけではなく、こうした営みそのものを見せる仕組みなのだと感じました。