佐原の町並みを歩いていると、「ここ、なんだか落ち着くなあ」と足が止まるお店に出会うことがあります。
今回お話を伺ったのは、そんな“吸い寄せられる”空気をまとったお店、「すっぴんや(素顔屋)」の蜷川広美さん。
店名からして、ちょっと気になりますよね。
「すっぴん」って、つまり飾らない、素のまま…?
でも中に入ると、そこには手作り雑貨や婦人服、和傘など、眺めているだけで楽しいものがずらり。
“自然派のお店”として始まったはずが、少しずつ変化しながら、今の形に落ち着いたのだそうです。


「本当は、石鹸とか無添加のお店がやりたかったんです」

大内:
すっぴんや(素顔屋)さんって、名前からして独特で…! まず、お店を始めたきっかけを伺っても良いですか?

蜷川さん:
本当は、石鹸とか無添加とか、そういう“自然派”のものを中心にやりたいなと思ってたんです。
でもやってみたら、観光地だと洗剤を買って帰るって、なかなか難しくて。

大内:
確かに…バスとかで来てると、荷物になりますもんね。

蜷川さん:
そうなんです。都会の方は、生協さんとかデパートとか、もう普通に買える。
「ここでやりたかったのに、需要が少ないんだ」って、やりながら気づいちゃって。ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。

最初に思い描いた理想と、実際に店を続けていく現実。
蜷川さんはそれを「失敗」みたいに言うけれど、その気づきがあったからこそ、今のすっぴんや(素顔屋)があります。

素顔屋の店内で陳列されている様子


変わっていくのは、悪いことじゃない。むしろ「大事なこと」

大内:
今のすっぴんや(素顔屋)さんは、雑貨や一点もののイメージが強いです。方向転換はどういう感じで?

蜷川さん:
今は、こだわりのある雑貨とか、手作りのものとか、“一点もの”を置くようになりました。
コンセプトとしては、「あなただけのお気に入りを見つけてもらおう」っていう感じです。

大内:
いいですね…! “ここでしか出会えない”感があります。

蜷川さん:
そうそう。帽子とかも、なるべく同じものが大量に並ばないように。
それと、和傘も街並みに合うみたいで、結構人気なんですよ。

商品ラインナップは、いわゆる“トレンド”にも寄っていきます。
ただそれは、流されるというより、町の変化や来る人の変化に合わせて「店も育っていく」感覚。

蜷川さん:
正直、流れに乗って変わっていっちゃいますよね。
よそのお店の方も「昔と売ってるものが違う」って言ってて、すごく分かりました。
売れるものを置かないと、お店って続けられないから。

この言葉、めちゃくちゃリアルです。
“こだわり”と“暮らし”の間で揺れながらも、ちゃんと続けるために選び続けてきたんだなと感じました。


「ナチュラル」と「こだわり」の、ちょうど真ん中

すっぴんや(素顔屋)という店名からも分かるように、蜷川さんの軸には「ナチュラル」があります。
でもそれは、ストイックに突き詰めるというよりも、“生活の中でできる範囲で”という距離感。

大内:
普段、大切にしている考え方ってありますか?

蜷川さん:
なるべくナチュラルなものとか、自然派のものとか、気をつけたい気持ちはあるんですけど…完璧じゃないから。
こだわりすぎても孤立しちゃうし、だから中間ぐらいで、って感じです。

“中間ぐらい”って言葉が、すごくいいなと思いました。
誰かをジャッジしないし、自分も追い詰めない。だから店にも、ゆるやかな安心感が流れているんだと思います。


「品物を通して、癒しを感じてもらえたら」

大内:
お店として「ここを見てほしい」っていうポイントはありますか?

蜷川さん:
癒される感じを目指してはいるんです。品物を通して。
佐原の街並み自体がちょっとレトロで、和風な感じじゃないですか。
だから、来る人もそういう“和っぽさ”とか“自然派っぽさ”を求めてるのかなって思って、それに沿えるようにしたいなって。

素顔屋の外観の様子

また、手作り品は“置いて終わり”ではなく、売れたら作り手さんに追加でお願いすることもあるそう。
作り手と店がつながっていて、さらにお客さんの「これ、好き」が次の制作につながっていく。小さいけれど、とても良い循環です。

蜷川さん:
手作り品でも気に入ってもらえれば、またその人に作ってもらう感じなので。
「こういうの作って」ってリクエストしたりしますね。


まちぐるみ博物館で残っている、“お店の記憶”

蜷川さんが印象的に話してくれたのが、子どもたちの社会科見学のこと。
すっぴんや(素顔屋)だけでなく、家具屋さんの方まで含めて、町を学ぶ授業が毎年あったそうです。

蜷川さん:
小学生がぐるぐる回って質問して…毎年あったんですよ。
自分の子どもも学校に行ってたし、少しは役に立てて良かったなって。

コロナ以降、その機会はなくなってしまったけれど、店の中にはちゃんと記憶が残っている。
まちぐるみ博物館って、こういう“店の積み重ね”を町の側に残す取り組みでもあるんだな、と感じました。

素顔屋の店内に並ぶ昔の道具


「ナチュラルへっぽこ女将」って、実はすごく強い

最後に、蜷川さんのキャッチコピーを一緒に考える流れになり、出てきたのがこの言葉。

蜷川さん:
“へっぽこ”だもんね。…じゃあ、「ナチュラルへっぽこ女将」かな(笑)。

大内:
最高です。めちゃくちゃ“すっぴんや(素顔屋)”っぽいです。

蜷川さん:
本当にいっぱいいっぱいなんですよ(笑)。なんとかやってこれて、良かったって思ってます。

この「笑いながら言える強さ」が、すっぴんや(素顔屋)の空気そのものだと思いました。
背伸びしすぎず、でもちゃんと工夫して、町の変化に合わせて店も少しずつ変えていく。
その“等身大の商い”が、佐原のまちなみの中で、いい余白になっている気がします。


取材後記

すっぴんや(素顔屋)は、最初に想像していた“自然派のお店”とも少し違うし、ただの雑貨店でもありません。
「癒し」「一点もの」「街並みに合うもの」「続けるための変化」その全部が、無理なく同居している場所でした。
佐原に来たら、ぜひふらっと入ってみてください。
たぶん、気づいたら何か手に取っていて、「これ、私の好きかも」ってなると思います。