佐原の小野川沿いを歩いていると、ひときわ目を引く金色の看板があります。
それが「上州屋酒店」。川沿いの町並みに溶け込みながらも、しっかりと存在感を放つお店です。
創業は今から約85年前。もともとは紙問屋の倉庫だった建物を、おじいさんが神田で丁稚奉公をしていた「上州屋」から暖簾分けする形で、この佐原に店を構えました。

今回お話を伺ったのは、ご主人の山内亮廣さんと、おかみさんの美智子さん。
インタビューの最後に「ご自身を表すキャッチコピーをつけるとしたら?」と聞くと、美智子さんは少し笑いながら、こんな言葉を選びました。
「人のちょっと良いところを見つけられるおかみさん、かな」
この言葉は、そのまま美智子さんの日常そのものを表しているようでした。
山内さんご夫妻は、生まれも育ちも佐原。実家も商売をしていて、幼い頃から「お店がある暮らし」が当たり前だったといいます。
ゆーみん:
ずっと佐原で暮らしてこられたんですね。
美智子さん:
そうですね。この辺りで生まれて育って、ずっと地元です。
佐原はお祭りが盛んで、秋祭りも夏祭りも両方あるでしょう? あれは良いことだなって思ってます。
ゆーみん:
お祭りはお店も忙しくなりますよね。
美智子さん:
忙しいけど、それも含めて佐原らしいなって。
子どもたちもお祭り大好きですし、そうやって関わってもらえるのは嬉しいですね。
子育ての時期は慌ただしかったそうですが、今は子どもたちも成長し、それぞれ自分の仕事を持つようになりました。
美智子さん:
今は二人でお店をやってます。
跡を継ぐ人がいないかも、って思うこともあるけど……まあまあ、観光客も来てくれますしね。この場所はありがたいです。
佐原について話していると、美智子さんは「程よさ」という言葉をよく使います。
ゆーみん:
観光について、どう感じていますか?
美智子さん:
京都や鎌倉みたいに、インバウンドがすごいところもあるけど、佐原は程よい感じでいいなって思ってます。
ただ一方で、気になることもあるそうです。
美智子さん:
昼間は人がいても、夜になるとひっそりしちゃうでしょう。
観光客の居場所が、夜にはなくなっちゃう気がして。
イベントで何かやるのも大変ですし、「どうしたらいいんだろうね」って、よく話します。
上州屋酒店は、佐原まちぐるみ博物館の参加店舗でもあります。
美智子さんは、おかみさん会の一員として、長く活動に関わってきました。
ゆーみん:
おかみさん会の活動はいかがですか?
美智子さん:
人数も多くないから、正直大変なことも多いですね。
最初に集まった時に、「何ができそうか」を出し合って、できることを少しずつやってきました。
年間を通してイベントを行い、「来てもらって終わり」ではなく、リピーターを増やそうと続けてきたといいます。
美智子さん:
でもね、途中から入った人が一生懸命やってくれても、やめちゃうこともあるんです。
負担なく、長く続けてもらうにはどうしたらいいのかなって、ずっと考えてます。

美智子さんの人柄がよく表れているエピソードがあります。
ある日、台湾から来た家族が、川沿いで草履を落としてしまったことがありました。
美智子さん:
草履を落としちゃって、みんなでワイワイしてたんですよ。
言葉は分からなかったけど、困ってるのは分かるでしょう。
虫取り網を持ってきて、ご主人と一緒に川から草履をすくい上げると、その家族は大喜び。
後日、写真と一緒にお礼のメッセージが届いたそうです。
美智子さん:
返事を出したわけじゃないんですけど、その手紙、今も飾ってあります。
嬉しかったですね。
川に物を落とした人を助けるのは、実は一度や二度ではありません。
美智子さん:
ボールとか、携帯とか、忘れ物も多いですよ。
もう慣れっこですね。

上州屋酒店のまちぐるみ博物館としての展示には、一升樽や昔使われていた道具があります。
美智子さん:
昔はお祝いの時に使っていたものですね。
今はもう使われなくなったけど、飾りとして残してます。
特別な展示説明があるわけではありません。
でも、そこに「使われてきた時間」がそのまま残っています。
取材後記
「人のちょっと良いところを見つけられるおかみさん」。
その言葉どおり、美智子さんは、人や出来事の中から自然と良い面をすくい上げる人でした。
川に落ちた草履を拾うことも、忘れ物に対応することも、特別なことではなく日常の延長。
上州屋酒店では、そんな日々の積み重ねそのものが、まちぐるみ博物館になっています。
佐原を歩くとき、このお店の前を通ったら、ぜひ金色の看板だけでなく、店の中の空気や、人との距離感にも目を向けてみてください。

