佐原の歴史的な建物や風情ある景色、何度行っても目を奪われますよね。
けれど、その景観は自然に残っているわけではありません。
そんなことを感じるきっかけをいただいたインタビューとなりました。

今回お話を伺ったのは、香取市地域おこし協力隊として活動する田畑尚貴さん。
町並み保存をミッションに、行政や地域の人たちと関わりながら、日々佐原の景観と向き合っています。
現在は、市の都市整備課の業務に取り組みながら、香取市佐原チャレンジショップで「マチアミ文庫」を運営し、歴史的建造物の保存に関わる業務や地域との対話を続けています。
取材を通して印象的だったのは、「歴史的な町並みを守る」という言葉の裏側にある、暮らしへのまなざしでした。

建築への興味から、まちへの興味へ

田畑さんが最初に興味を持っていたのは、「まちづくり」ではなく建築だったそうです。
大学も建築学科に進学しました。もともと歴史的な建物を見ることが好きで、そこから深く学ぶうちに現代建築や都市計画・まちづくりへと関心が広がっていきました。

その原点となったのが、中学生の頃に訪れた岩手県平泉だったそうです。
中尊寺や毛越寺などの史跡を見たとき、「建物そのもの」だけではなく、場所の歴史をどう残していくかという世界に衝撃を受けたといいます。
特に印象に残っているのは、すべてを完全に復元するのではなく、柱の跡などを残しながら「ここにこういう建物があった」と観覧者の想像を促しながら伝える展示方法でした。

「“こういう世界があるんだ”って思ったんです。最初は建築そのものより、建築の持つ歴史の方から興味を持っていった感覚でした」

その興味は、やがて建物単体から、建物が存在するまちへと広がっていきました。

「近いし行ってみようかな」から始まった佐原との出会い

佐原との出会いは大学の授業で、市民が取り組んでいる景観保護の活動を調べるという課題が出た時でした。
意外にも、最初から佐原に強く惹かれていたわけではなかったといいます。

「佐原を選んだ理由は一番行きやすそうだったから。住んでいるのも千葉市で、同じ千葉県だから現地を見てみようかな、くらいでした(笑)」

ただ、同じ千葉でも埋立地のエリアで育った田畑さんにとって、電車で佐原へ向かう道中の田園風景や、小野川沿いの景色は大きな衝撃だったそうです。

とはいえ、当時は、「こういう景観を守ろうとしている人たちがいるんだな」という程度の認識だったといいます。
しかしその後、もう一度佐原を訪れたタイミングで、大きな転機が訪れます。

東日本大震災後の佐原で見た、“残すこと”の現実

東日本大震災の後、再び佐原を訪れた田畑さん。
そこで目にしたのは、屋根瓦が崩れブルーシートで覆われた建物、そして隆起した川底が露出した小野川。地震の被害を受けた佐原の姿に衝撃を受けたといいます。

さらに、地域の方から聞いた話が、田畑さんの価値観を大きく変えました。建物を文化財として残すためには、元通りに修復しなければならない。けれど、耐震補強も簡単にはできない。しかし、また地震が来たらという恐怖もある。

その葛藤を聞いたとき、初めて気づいたそうです。

「自分は歴史的な町並みが残っているんだくらいの軽い感覚で見ていたけれど、実際は生活の場として残し続けるって、本当に大変なことなんだなって。」

そこから、佐原の見え方が大きく変わったといいます。
ただ美しい景観があるのではなく、“人が守っているから残っている”。
その実感が、今の活動の原点になっています。

地域おこし協力隊として、地域に入り込む


現在、田畑さんは「町並み保存」をミッションに地域おこし協力隊として活動しています。
1年目は、市の都市整備課で建物の構造や修復について学びながら、地域のイベント支援や高校生の活動サポートなどを行ってきました。
そして2年目からは、歴史的建造物であることを表す「標章プレート」の制作・設置等、町並み保存の啓発に関することにも取り組んでいます。

実際に地域へ入り込んでみて、「保存」は決して単純なものではないと改めて感じているそうです。

「保存に対して前向きな考え、否定的な考え、無関心を含めて、いろんな声を聞くようになりました。だからこそ、自分に何ができるのかをもっと具体的に考えなきゃいけないなと思っています。」

歴史的建造物を守ること。
地域住民の日常生活を送ること。
保存と暮らしの両方を考えながら佐原の景観保存に携わる姿が印象的でした。

「マチアミ文庫」で本と地域を繋ぐ

田畑さんは現在、「マチアミ文庫」の運営にも取り組んでいます。
マチアミ文庫は、古本交換とシェア型本棚という仕組みによって、モノを介して、地域との新たな接点が生まれる場所です。

古本を持ち寄り、交換するイベントを見たとき、本を介してゆるやかなつながりが生まれる様子に面白さを感じたといいます。

現在、マチアミ文庫には「家にある本を引き取ってほしい」という相談が寄せられることも少なくありませんが、小さな店舗のためお断りするしかありません。
そんな中で田畑さんが次に目指しているのが、古本の引き取りや寄贈を町並み保存に還元すること。
先進事例を参考に、マチアミ文庫を通して多くの人が町並み保存に関われる仕組みの構築を考えています。

古本交換も、シェア型本棚も、それが目的ではなく、人と人、人と地域をつなぐための手段にすぎない。
そんな想いで「マチアミ文庫」は生まれ、進化を続けます。

取材後記

去年から佐原元気プロジェクトがお世話になっている田畑さん。
しかし、田畑さんがどのような想いで佐原に関わっているのか伺うのは初めての機会でした。

田畑さんのお話を聞いていると、「歴史的な町並み」という言葉の見え方が少し変わりました。
昔ながらの建物の裏側には、建物を守り続ける人たちの悩みや葛藤、そして日々の営みがあります。特に佐原は、今でもお店や住居がある場所が保存地区となっており、日々の暮らしと保存を両立させなければいけません。
田畑さんは、そうした現実に向き合いながら、「残すこと」の難しさと丁寧に向き合っているのだなと感じました。

また、田畑さんはご自身のことを「街並み保存見習い」と表現されていました。この言葉からまだまだ学び、成長するぞという田畑さんの優しく謙虚なお人柄が表れているなと思いました。

この記事を読んだ方が佐原の町並みを歩くとき、美しい景観だけでなく、その景色を未来へつなごうとしている人たちの存在にも目を向けてもらえたら嬉しく思います。